大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和52(オ)1306 判決

主 文

本件上告及び附帯上告を棄却する。

上告費用は上告人の、附帯上告費用は附帯上告人の各負担とする。

理 由

上告代理人山本孝の上告理由第一点及び第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし

て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審

の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ

とができない。

同第三点について

請負契約の目的物に瑕疵がある場合、注文者の請負人に対する瑕疵修補又はこれ

に代る損害賠償の請求権は、民法六三七条ないしは六三八条の期間内にある限り注

文者が目的物の引渡を受けたのちもこれを行使することができ、注文者が目的物の

引渡を受けた当時瑕疵修補の請求をしなかつたことから直ちに右請求権を放棄した

ものと解するのは相当でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用すること

ができない。

同第四点について

本件記録によれば、被上告人は上告人主張の請求権が認められることを条件とし

て予備的に相殺の主張をしており、所論の点に関する原審の判断に民訴法一八六条

の違反はない。論旨は、採用することができない。

同第五点について

請負契約における注文者の工事代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価

的牽連関係に立つものであり、瑕疵ある目的物の引渡を受けた注文者が請負人に対

し取得する瑕疵修補に代る損害賠償請求権は、右法律関係を前提とするもので、実

- 1 -

質的・経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負う義務につき

その間に等価関係をもたらす機能を有するのであつて(最高裁昭和五〇年(オ)第

四八五号同五一年三月四日第一小法廷判決・民集三〇巻二号四八頁参照)、しかも、

請負人の注文者に対する工事代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代る損

害賠償債権は、ともに同一の原因関係に基づく金銭債権である。以上のような実質

関係に着目すると、右両債権は同時履行の関係にある(民法六三四条二項)とはい

え、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとは認められ

ず、両債権のあいだで相殺を認めても、相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を

与えることにはならないものと解される。むしろ、このような場合には、相殺によ

り清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明なら

しめるゆえんでもある。この理は、相殺に供される自働債権と受働債権の金額に差

異があることにより異なるものではない。したがつて、本件工事代金債権と瑕疵修

補に代る損害賠償債権とは、その対当額による相殺を認めるのが相当であり、右と

同旨の原判決は正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異に

し本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

附帯上告代理人鈴木栄二郎、同松山正、同安藤壽朗の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし

て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審

の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ

とができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主

文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 団 藤 重 光

- 2 -

裁判官 岸 上 康 夫

裁判官 藤 崎 萬 里

裁判官 本 山 亨

裁判官 戸 田 弘

- 3 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!